個人のお店なので名前を出すのは控えますが、そのお店は、私を本当の意味で「出汁(だし)」の美味しさに目覚めさせてくれました。出会いは、静岡県にある、とある港町です。店先には、深いコクの中に爽やかな酸味を感じる、削りたてのふわふわした鰹節の香りが漂っていました。私が鰹節の専門店を訪れたのは30歳を過ぎてから。それが初めての経験でしたが、かつての日本では、このような専門店が家庭の出汁文化を支えてきました。

私はそれまで、出汁を使うときは顆粒タイプを選んでいました。なぜなら、鰹節から出汁を取るのは手間がかかるし、価格も高い、何より「出汁を取った後の鰹節を捨てるのはもったいない」と思っていたからです。もちろん顆粒出汁も十分に美味しいのですが、この時に出会った削り節は、本当に素晴らしいものでした。それを一口食べると、えぐみや臭みは全くなく、上品な香りと透き通った旨みが口いっぱいに広がります。お店の方は「小さい子どもほど、本物の味がよくわかるのよ」と話してくれましたが、実際に私の息子たちも、大喜びで削り節を食べていました。

それ以来、我が家の味噌汁は鰹節から取る出汁で作っています(もちろん忙しい時は、顆粒出汁も並行して使います!笑)。市販の顆粒出汁に慣れていると、最初は少し味が薄く感じるかもしれません。しかし、飲み進めるうちに、上品な旨みが具材の味を優しく引き立ててくれることに気づくのです。

出汁の取り方は、実はとても簡単です。沸騰直前のお湯に削り節を入れ、1〜2分待ってから、こし器でこすだけ。特別な道具がなくても、自宅で簡単に出汁を取ることができます。削り節を保存するときは、密封して冷凍庫へ入れてください。そうすることで酸化を防ぎ、香りを長く保つことができます。また、出汁を取った後の削り節も、フライパンで炒めて味付けをすれば「ふりかけ」として食べられます。自然からいただいた命を無駄にせず使い切る。ここには、日本の「始末(しまつ)」という節約と感謝の精神があります。 近年、鰹節の専門店は減少していますが、もし街で見かけたら、ぜひ一度足を運んでみてください。少し敷居が高く感じるかもしれませんが、お店の方はきっと優しく教えてくれます。鰹節には多くの種類があり、用途によって削り方も変わります。鯖(さば)節など、他の魚の削り節もあって面白いですよ。私たち日本人も、お店の方におすすめの使い方を聞きながら買い物をしますから、心配いりません。丁寧にとった出汁のお味噌汁は、きっと皆さんの心と体を温かく、やさしくほぐしてくれるはずです。