日本の春になると、街では多くの人がマスクを着けて歩いています。冬の間に流行していたインフルエンザなどの感染症が落ち着く頃、今度は別の理由でマスクをする人が増えます。それが花粉症です。英語では hay fever と呼ばれるアレルギーで、日本では人口の3〜4割が症状を持つとも言われるほど身近なものです。日本では2月頃から花粉が飛び始め、3月から4月にかけてピークを迎えます。主な原因は Japanese cedar(スギ)の花粉です。
このスギの多さには歴史的な背景があります。戦後の高度経済成長期、日本では住宅建設などのために大量の木材が必要になりました。そのため、成長が早く建材として使いやすいスギが全国で多く植えられたのです。もともと日本の森には、地域ごとにさまざまな広葉樹が生えていました。広葉樹の多い森では、落ち葉が土壌を豊かにし、雨水をゆっくりと蓄える働きがあるとも言われています。しかし、スギの人工林が増えたことで森の姿は大きく変わりました。そして今、そのスギが大量の花粉を飛ばし、多くの人が花粉症に悩まされるようになっています。
花粉の季節になると、日本では天気予報と一緒に花粉の飛散情報がニュースで流れます。「少ない」「多い」「非常に多い」といった予報を見ながら、マスクや薬の準備をする人も少なくありません。対策としては、病院で処方される薬のほか、花粉対策用のメガネを使う人もいます。また「べにふうき」という種類の緑茶が症状を和らげると言われ、好んで飲む人もいます。さらに、ヨーグルトなどの発酵食品が体質を整えるのではないかと考え、日常的に取り入れる人もいます。排気ガスなどの大気汚染物質が花粉と結びつき、症状を強くする可能性も指摘されており、都市部のほうがつらいと感じる人もいるようです。
現在、日本ではスギ人工林を減らしたり、花粉を出さない「無花粉スギ」へ植え替えたりする取り組みが進められています。政府は、およそ30年後に花粉の発生量を半減させるという目標を掲げています。本来の自然の姿に近い森に戻すことが、いちばん良いのではないかとも思います。しかし、長い時間をかけて作られてきた森を変えていくには、やはり時間が必要なのかもしれません。
興味深いことに、他のアレルギーとは異なり、大人になってから突然花粉症の症状が現れる人が少なくありません。長い間、症状がなかった人が、ある年の春をきっかけにくしゃみや鼻水が止まらなくなり、「自分も花粉症になったのかもしれない」と気づくのです。
実は、私自身も毎年この季節になると、今年こそ花粉症を発症するのではないかと、少しびくびくしながら春を迎えています。