日本語の言語学的分解
世界の言語は、家系図のように「語族」と呼ばれるグループに分けて考えられます。語族とは、同じ祖先の言語から分かれて発展したと考えられる言語の集まりのことです。
代表的な語族のひとつが、インド・ヨーロッパ語族です。英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語、さらにはヒンディー語などもこの仲間に入ります。世界で最も広く話されている語族と言えるでしょう。 次に、セム語族があります。アラビア語、ヘブライ語、アラム語などがこれにあたります。宗教や歴史と深く結びつき、聖書やコーランの言語としても知られています。 一方、ハム語族という呼び方は、現在の言語学ではあまり使われなくなり、「セム・ハム語族」ではなく「アフロ・アジア語族」とまとめて呼ばれることが多くなっています。 また、東アジアや中央アジアの言語をまとめようとしたものに、アルタイ語族という考え方があります。トルコ語、モンゴル語、ツングース系の言語などが含まれるとされ、日本語や韓国語もこの仲間に入るのではないか、と考えられた時代もありました。しかし、決定的な歴史的証拠が見つからず、現在では「アルタイ語族説」は仮説のひとつ、あるいは否定的に見られることも多い立場です。
このように、多くの言語は語族の中で説明されますが、日本語だけは少し特別です。 日本語は、どの語族にもはっきりと入れることができず、「系統不明」あるいは「独立した言語」と説明されることが多いのです。
ただし、日本語は文の作り方の点で、トルコ語や韓国語とよく似ていると言われます。たとえば「私はりんごを食べます」という文は、「私+は+りんご+を+食べます」という順番になります。これは「主語→目的語→動詞」という語順で、トルコ語も同じ並び方をします。 私自身、大学で少しトルコ語を学んだことがあります。そのとき強く印象に残ったのが、「過去形にするときは、動詞のおしりを変える」という考え方でした。 日本語でも、「食べる」が「食べた」、「行く」が「行った」というように、動詞の最後の形を変えることで時制を表します。トルコ語も同じように、動詞の後ろに過去を表す形をつけて変化させます。この感覚が、日本語ととてもよく似ていると感じました。 また、日本語は「助詞」を使って意味の関係を示します。「は」「が」「を」「に」などがそれです。トルコ語も、語の後ろに小さな要素をつけて意味の役割を示します。この点も、日本語と共通しています。 さらに、日本語は「膠着語(こうちゃくご)」と呼ばれるタイプの言語です。「食べ・させ・られ・まし・た」のように、意味のパーツを後ろにどんどんくっつけていく仕組みです。トルコ語も同じように、語の後ろに意味のかたまりを積み重ねていきます。
でも「似ている=同じ語族」というわけではありません。文の形が似ていることと、歴史的に同じ祖先を持つことは、別の問題です。 そのため、日本語は今でも「どこの家系に入るのか、はっきりしない言語」として語られています。
もしかしたら、あなたの母国語と日本語は、形も音も、考え方も、まったく似ていないかもしれません。 でも、「難しそう」と身構えるのではなく、これまで踏み入れたことのない不思議な世界に足を踏み入れるような気持ちで、ぜひ、わくわくしながら日本語の世界に入ってきてください。 日本語の世界で、お待ちしています。

【参考図版】 世界の語族分布図:Wikimedia Commons / File:Primary Human Languages Improved Version.png (https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Primary_Human_Languages_Improved_Version.png)
